『木星のおおよその大きさ』に関して⑤
〈劇〉の粒子

■「図」と「地」の反転

セリフを「捨てるように」発すること、セリフを「溶かす」ことによって、「状況」が引き立つ。演技者はこの時、セリフをどう発するのかではなく、舞台上にどういるのか、に意識がよりいっているはずだ。

脚本ではセリフが文字として用意されているため、どうしても演技者はセリフに引っ張られる。セリフをどう発するかに意識が向かう。つまりセリフを発している時がオン、セリフがない時(たとえば他の演技者がセリフを発している時)がオフ、というような状態が自然と起こりやすい。

意識がセリフにいきすぎないようにする(つまりセリフを「捨てるように」発する、「ノコギリを押し出すように」セリフを発する)ことで常にオンの状態をつくる、これが「状況」が引き立った状態だ。常にオン続いている状態、それはラインの継続である。

セリフが「図」、「状況」が「地」だとすると、だまし絵を見るように「地」に焦点を当てる。そうすると反転し「地」が「図」に、「図」が「地」に見えてくる、そんな感覚だろうか。

こうして〈劇〉が立ち上がる。

 

■〈劇〉をその場に留めるということ

〈劇〉を細かな粒子のようなものと考える。舞台上は広いので、その粒子は発生すると同時に拡散してゆく。これをその場に留めておくためには受け皿となる容器が必要だ。その容器とは、おそらく舞台装置だと思う。

透明なプラスチックの容器の中に詰まった〈劇〉の粒子を想像する。この粒子の塊が演劇のかたちだ。容器がそれをかたちづくる。容器(=舞台装置)がない空間では、粒子の拡散がとまらない。そして濃度が薄まり、そのうち舞台空間に見失う。

〈劇〉の粒子を留まらせるためには、粒子自体がその場に留まる内在した力をもつこと、あるいは、粒子をその場に引きつける力が存在していること。

セリフを点とするなら、「状況」は一続きである。セリフはそれぞれぶつ切りでひとつひとつが途切れるが、「状況」はそこにずっと継続する。この継続という磁場の引きつけが〈劇〉をその場に留まらせている可能性がある。

 

劇作家・演出家。 愛知県出身。 2007年-2015年、演劇カンパニー「わっしょいハウス」にて、主宰・劇作・演出として活動。現在は個人名「犬飼勝哉」として作品を発表する。2017年、急な坂スタジオ「坂あがり相談室plus」対象者として選出。同年12月、早稲田小劇場どらま館「どらま館ショーケース2017」に選出され作品を発表。